【声マガ・インタビュー】八代 拓

【声マガ・インタビュー】八代 拓

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PROFILE

ヴィムスに所属する八代拓さんは、岩手県出身の1月6日生まれ。『タイガーマスクW』(東ナオト/タイガーマスク役)、『千銃士』(ブラウン・ベス役)、『ドメスティックな彼女』(藤井夏生役)等に出演。2019年4月放送の『KING OF PRISM‐Shiny Seven Stars‐』では十王院カケル役で出演。
趣味は野球観戦とサッカー観戦、スポーツはするのも観るのも大好きという八代さん。お気に入りのサッカー選手を尋ねると、元アルゼンチン代表のカルロス・テベス選手と答えてくれました。過酷な生い立ちを微塵も感じさせない、正々堂々とした美しいプレイに惹かれるのだとか。そんな八代さんに、声優をめざしたきっかけと日本ナレーション演技研究所(以下、日ナレ)で学んだことや、今後の目標についてお話していただきました。

プロの声を目の当たりにした衝撃

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

声優という仕事を意識したのはいつ頃ですか?

高校2年生の時です。友人から『新世紀エヴァンゲリオン』のDVDを借りて、アニメに興味を持ちました。それまでは全くといっていいほど興味がなかったのですが、この作品と出会ったことでいろいろなアニメを観るようになりました。声優というお仕事を意識したのもその頃ですね。

では、声優をめざしたきっかけを教えてください。

当時の僕は、自分のことをこれといって秀でたところのない人間だと思っていたのですが、もし声優になって、アニメのエンドクレジットに自分の名前が出たら、アニメ好きの親友が僕のことを見直してくれるかな、と思ったのがきっかけでした。

日ナレを選んだ理由について教えてください。

岩手の実家のパソコンを使って「声優養成所」と検索したら、最初に出てきたのが日ナレでした。今振り返ってみても、僕の声優になりたいという気持ちはすごい熱量で、資料を取り寄せ、写真を撮って、と脇目も振らず次々に行動していきました。当時はまだ仙台校はありませんでしたから、日ナレに通うには東京に行くしかありませんでした。親にそのことをどうやって話そうか、とても悩みましたね。

結局、どのようにお話をされたのですか?

父と母には、独り暮らしをしながら学校の先生になるために、東京の大学に行きたいと告げました。事実、大学で教員になるための勉強もしましたから、決して嘘ではないんですけど。ただし、最大の目的を伏せていたというだけで(笑)。

入所した頃の日ナレの印象について教えてください。

講師の第一声を耳にした時は衝撃でした。「同じ人間じゃないかもしれない」とさえ思ってしまうほど、声の力をまざまざと見せつけられて、「自分は声優になれるのかな?」と考え込んでしまいました。これはネガティブな意味ではなくて、発声やかつ舌も含めて「このレベルにならないと現場では通用しないのか」と思ったのを強烈に覚えています。

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

圧倒されたのですね。

はい。それもセリフではなくて、日常会話だったので余計に驚きました。その講師は大ベテランの方なのですが、毎朝、「外郎売ういろううり」を必ず練習しているとおっしゃっていました。基礎を軽んじないその姿勢がなければ、これだけのクオリティは保てないのかと驚き、同時に継続する姿勢がいかに重要かを思い知らされました。

基礎科の講師から教わったことで記憶に残っていることはありますか?

具体的なことはおっしゃらない方でした。ある時レッスンで、「さあ、はじめましょう」というセリフだけ言って椅子から立ち上がるお芝居をしたことがあったのですが、どこがダメなのか一切指摘がないまま、15回くらいやり直したことがあったんです。僕はダメだと言われる度に、何度も必死で演じ直したのですが、その試行錯誤の中で気づいたことがあったんです。このレッスンで僕たちに一番学んでほしかったのは、「自分自身で気づくこと」だったのだと思います。当時の僕は「どこがダメなのか全部教えてほしい」と思っていたのですが、そんな僕たちに対して、あえて多くを語らず、見守ってくださっていたのだとも思います。

当時の生活サイクルを教えてください。

週5日は大学、金曜日の夜は日ナレに通い、週末はアルバイトをしていました。

毎日予定が埋まっている状態だったのですね。

でも、大学ではサークルなどに入っていなかったので、時間的には余裕があったと思います。その空いた時間で、家で発声やかつ舌の練習をしていました。

どのように?

夏はちょっと厳しいのですが、毛布とかけ布団を頭からかぶれば、意外と声が漏れないものなんです。その状態で、発声の練習をひたすらしていました。それとアルバイトで貯めたお金でマイクを購入して、自分の声を録音したものをパソコンに取り込んで、何度もチェックしていました。

本科で知った芝居の苦しさと楽しさ

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

本科では舞台形式のレッスンが中心になると思うのですが、いかがでしたか?

本科のレッスンでは、丸くおさまっていることが許されない、いい子ちゃんなだけでいることが許されない、そんな状況に受講生全員が追い込まれました。「舞台の上でいっぱいいっぱいの役者と、余裕のある役者がいた場合、お客さんはどちらを観たいかといわれたら後者だ。そのためには役者は遊び心を大切にしなくてはならない」というのが、その時の講師の考え方でした。そこで僕ら受講生に対して課せられたテーマが、「観る人の予想を裏切るお芝居をすること」だったんです。

それを聞いてどう思われましたか?

自分の中に全くない思考だったので、とても苦労しました。それまでの僕は、親や先生に言われたことをそのままやる生活しかしてこなかったので、初めのうちはどうしていいのかわかりませんでした。

具体的にはどのようなレッスンだったのでしょうか?

まず台本を読み解くところから始まって、そのうえで演技を組み立てて一人ずつ披露するのですが、正解ではないお芝居をすると、「違う」と一言だけ言われて次の受講生に交代させられてしまいます。正解が出るまでこの流れを繰り返すというレッスンでした。誰も正解を導き出せず、講師の方から正解を教えていただいた時に「ああ、なるほど」と僕らが思ってしまったら、その時点で受講生側の負け、そんなレッスンです。

演じる側にとっては、なかなか厳しいですね。

課題を発表するのが正直怖かったです。こちらが1週間、必死で考えてきた芝居に対して「違う」の一言で終わりなわけですから(笑)。でも、講師の考える正解以外のお芝居を受講生がしても、面白かったらそれはそれで認めてくださるんです。講師の方が「面白い」とおっしゃると、その場の空気も変わり、良いアイデアも出やすくなるので、みんなのモチベーションも一気に上がります。この繰り返しの中で、クラスの雰囲気は目に見えて良い方向に変わっていきました。本科の1年間は、講師の方を笑わせることに受講生全員一丸となっていたので、みんなの団結力は高かったと思います。今はそれも講師の狙いだったんじゃないかと僕は思っています。

講師が「違う」と言ったのは、正解があるということですよね。でも、その一方で「観る人を裏切るお芝居」を求められる。一見、矛盾しているように思うのですが。

ですよね(笑)。僕も引っかかりました。でも講師の方のおっしゃる「違う」というのは、人としての動きや、そのキャラクターの心理描写を表現するうえで筋が通っていない、矛盾している、もしくはお芝居として単純に面白くない演技に対して「違う」とおっしゃっているのであって、決して講師の好みを基準にしているわけではないんです。良い意味での「裏切り」には正解があると思っています。矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、「裏切る」お芝居とは、正解を知っているからこそできるもので、たまたま演じることができた、ということとは根本的に意味合いが違うんですよね。

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

なるほど。

プロになった今、現場で「八代は面白いな」と思っていただけなかったら、次のお仕事はいただけません。僕なりの良い意味での「裏切り」を演じられることが、面白さも含む個性だと思うんです。そう考えると、本科ではすごいことを教えていただいたのだと感じます。そして、お芝居をすることの苦しさと楽しさを初めて味わうことのできた1年でもありました。

八代さんが「面白い」と講師に言われたのは、どんなお芝居をした時でしたか?

僕は全然ダメだったのですが、一度開き直って自分を思い切り解放して演じた際に、「メチャクチャだけど、最後まであきらめなかったことは評価する」と笑いながらおっしゃっていただけたことがありました(笑)。その時はとても救われた気がしました。

人としての基盤を作ってくれたラジオDJの仕事

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

研修科ではマイク前のレッスンがメインになると思うのですが?

研修科では感情表現を重んじる本科とは対照的に、読むということに対する具体的な勉強をさせていただきました。特にナレーションでは、文章のどの部分を強調すればより聞いている人に伝わりやすくなるのかを教えていただきました。強調するポイントによって全くイメージが変わるんです。僕にとって研修科1年目は、日本語をきれいに読むことに注力した1年間でした。また、同じ方向のマイクに向かって、相手と目線を合わせずに会話するのが、僕にはとても難しく感じました。全然会話になってなくて、距離感や語尾を変えるなど、試行錯誤を繰り返していました。

事務所に所属したのはいつですか。

本科の終わりに受けた所内オーディションで合格して、ヴィムスに所属しました。後にも先にも、人生であんなに嬉しかったことはありません。

アニメ作品のデビュー作を教えてください。

『銀のさじ Silver Spoon』という作品です。現場では、先輩方のお芝居に「こんなにも自由にマイク前で演じることができるのか」と驚きました。

ご自身のキャリアの中で、忘れることのできないお仕事や人との出会いがあれば教えてください。

千葉のラジオ局、bayFMで番組のDJをさせていただいたのですが、この時お世話になったディレクターさんからは、とても大切なことを教えていただきました。

どのようなことを教えていただいたのですか?

「(ラジオを)聴いていただけることのありがたみ」と「人に興味を持つ」ということです。ラジオのDJや声優として、という以前に人として大切な基盤を作っていただいたと思っています。番組ではゲストの方がいらっしゃってトークをするのですが、このやりとりが僕にとってはとても大変でした。アニメ作品に関わる際にも言えることなのですが、自分が演じるキャラクターに興味を持ち、事前に資料等を確認したり調べたりすることなしに、現場で良いお芝居をすることはできません。その際に大切なことは、単にその人やキャラクターが「好き」という次元ではなくて、しっかりその対象や相手の方と向き合うことです。その姿勢は、ラジオのDJも声優も全く変わりません。ディレクターの方には厳しくご指摘をいただいたこともありましたが、「人間に興味を持つ」という、声優としても、一人の人間としても忘れてはいけない核心の部分を教えていただいたと思っています。

【声マガ・インタビュー】八代 拓のインタビュー

ご自身の考える声優の仕事の魅力について教えてください。

日本のアニメ文化に関わることができる、そしてアニメ作品の物語を支える一部として参加できる。そこが最大の魅力だと思います。

どんな声優になりたいか教えてください。

現在、声優の活躍の場はアニメ作品だけでなく、歌など多岐にわたります。それもすべて、尊敬する先輩方が開拓してくださった道があるからこそ、僕も活動ができているのだと思っています。今は自分のことで精一杯ですが、いずれは先輩方がそうしてくださったように、後輩の皆さんのために道を広げていけるような声優になりたい、と思っています。

最後に声優をめざしている方へメッセージをお願いします。

僕は母から「あなたは秀でたものがないのだから、人様に感謝しながら一歩ずつ人生の階段を上がっていくしかありません。もし一段飛ばしで、エスカレーターにのっているような気持ちになった時は、それは下がっているということです」と言われるほど、とりたてて目立つところがない人間です(笑)。ですが、そんな僕でもアニメ作品に憧れて、いろいろな人に助けていただきながら、ここまでやってくることができました。こんな僕が声優になれたのだから、皆さんになれないということはないと思います。そしてせっかくめざすなら、楽しく、真摯に取り組んでください。応援しています!

プロフィール

八代やしろ たく

所属事務所
ヴィムス

主な出演歴

  • ドメスティックな彼女(藤井夏生)
  • B-PROJECT~絶頂*エモーション~(寺光遙日)
  • 千銃士(ブラウン・ベス)

八代 拓

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