【声マガ・インタビュー】武田 羅梨沙 多胡
TOPICS
PROFILE
アイムエンタープライズに所属する武田羅梨沙多胡さんは、愛知県出身の9月30日生まれ。『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』(有山雫役)、『ガンダムビルドダイバーズ』(スー役)、『ハッピーシュガーライフ』(宮崎すみれ役)等に出演。2019年1月放送の『バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~』では、ソナタ役を演じる。
かつてはイラストレーターをめざし、デザイン系の専門学校に通っていた武田さん。作品を見せていただくと、そのクオリティの高さとキュートで愛らしいタッチに驚かされるばかり。ちなみに好きなイラストレーターは黒星紅白さんだとか。そんな武田さんに、声優をめざしたきっかけと日本ナレーション演技研究所(以下、日ナレ)で学んだことや、今後の目標についてお話していただきました。
後悔したくなくて飛び込んだ名古屋校
声優という仕事を意識したのはいつ頃ですか?
高校生の時です。クラブ活動で漫画研究会に所属していたのですが、クラブの友人たちに声優好きな人たちがいて、その時に初めて声優という職業を意識するようになりました。
それからすぐに声優になりたいと思われましたか?
面白そうだな、とは思いましたが、当時の私はイラストレーターをめざしていたので、高校卒業後はデザイン系の専門学校に進もうと思っていました。
ではそんな武田さんが、声優をめざすきっかけになった出来事があったら教えていただけますか?
高校の時に声優志望の友人の付き添いで、ある専門学校の体験入学に参加したのですが、これが面白くて「声優、いいかも」と思うようになりました。その後、デザイン系の専門学校に進んだのですが、声優への興味が心の中で引っかかっていて、「今やらなかったら後悔するんじゃないか」と思い、日ナレに飛び込みました。だから声優をめざそうと思ったのはいつかと言ったら、「日ナレに入所したその日」ということになると思います(笑)。
日ナレを選んだ理由を教えていただけますか?
全日制の専門学校に通いながらでも受講できるからです。週1回3時間なら、なんとか時間を作って通えるだろうと思いました。それとタイミングもありました。私が決断した時点で、すでに4月が過ぎていたのですが、その年、日ナレでは7月入所ができたので。それで18歳の時に名古屋校に入所を決めました。
当時のライフサイクルについて教えていただけますか?
専門学校では、ほぼ毎日21時くらいまで課題に没頭する日々でしたが、週1日だけ17時で終わる日があって、この日に日ナレに通っていました。幸いなことに専門学校からさほど遠くなかったので。
武田さんから見た入所当時の名古屋校の雰囲気はいかがでしたか?
受講生みんなが顔見知りのような、誰とでも話せる和やかな雰囲気でした。
同じクラスの受講生から刺激を受けることはありましたか?
はい。デザイン系の専門学校に入ってくる人たちは、将来イラストレーターやデザイナーをめざす人がいたり、広告会社を志望する人もいたりと、進路は様々でした。でも、日ナレの受講生の多くがめざすのは声優なので、同じ目標に向かって切磋琢磨する姿がとても新鮮でした。そして皆さん友だちであると同時にライバルでもあるので、適度な緊張感もありました。特にクラスに負けたくない、と思える存在がいてくれたことは、とても良かったと思います。
「負けたくない存在」とはどんな人たちですか?
例えば、高校の頃に演劇部だった人たちです。演技経験があるので、その人たちのやることは私の知らないことばかりでした。「なんでそんなことができるのだろう」という驚きから始まり、「自分もやってみたい」と思うようになり、やがて「負けたくない」という意識に変化していきました。
クラスメイトの存在が武田さんの向上心を高めてくれたのですね。
そうなんです。私はセリフ覚えが悪かったので、課題で出されたセリフを何度も読み込みました。それでもレッスンでは緊張して、せっかく覚えたセリフを忘れてしまうことがありました。なので、唇がその動きを覚えるまで繰り返し、繰り返し、何度も反復しました。
現場で活かされた研修科でのレッスン
基礎科の講師の方から教わったことで印象に残っていることがあったら教えていただけますか?
自己紹介の時に姓と名の間で一拍置くといい、と教わったことです。そうすることで、相手に自分の名前がしっかり伝わるのはもちろん、気持ちを整理することもできます。私はけっこう早口なので勉強になりました。基礎科でのテーマは自己解放、とにかく怖気づかないでなんでもやってみよう、という気持ちを養う1年でした。
本科ではいかがでしたか?
演じる際、しっかり台本の意図を読み込んで、意味のある動きをすることが求められました。
最初に台本を読んだ印象が「楽しそう」と感じたものを、そのまま楽し気に演じたことがあったんですが、講師の方からなぜそのように演じたのか質問されたことがあって。私は「楽しそう」と感じたのでそうしただけで、それ以上の理由を答えることができなかったんです。その時「台本に書いてあることにはすべて意味がある。役者は意味のない動きをしてはいけない」と講師の方から指摘を受けたんです。演じる側の読解力を求められるとても難しいレッスンでしたが、大切なことを教えていただいたと思います。
研修科のレッスンで印象に残っていることと言えば?
初めてマイク前のレッスンを経験したのですが、自分の演技があまりに棒読みで愕然としたのを憶えています。もう少しサマになっているんじゃないかと期待していたのですが、全くダメで…。あの時は現実とのギャップに衝撃を受けて、さすがに「声優になるのは無理かも」と落ち込みました。
その他、講師の方からの教えで印象に残っていることと言えば、何かありますか?
「収録現場でマイクに入らないことほど無責任なことはない」と教えていただいたことが、心に強く残っています。もし講師の方のこの言葉がなかったら、現場で怖気づいてしまって、私はきっとマイクに入ることを躊躇していたと思うんです。でも研修科の時に厳しく鍛えていただいたことで、積極的にマイクに向かえるようになったと思っています。
つらかったレッスンはありましたか?
「3分間何をやってもいいので、クラスメイトを笑わせる」という課題があったのですが、見ている人たちは絶対に笑ってはいけないというルールなんです。だから、こちらは必死で笑わせようとしても全く笑ってくれないんです。この3分間が永遠に感じられました(笑)。このレッスンが1か月続いたのですが、さすがに3週目の時は気が重くなり、初めてレッスンを休もうかと思いました(笑)。
それはかなり大変な課題ですね(笑)。
はい(笑)。でも今となっては、本当にやっておいて良かったと思っています。講師の方は「追いつめられた時に出てくるものが大切なんだ」とおっしゃっていたのですが、この時のレッスンのおかげでハートが明らかに強くなったと思います。今でもあそこまで追いつめられたことはないですから(笑)。
覚悟を決めて声優の道へ
上京されたのはいつごろだったんですか?
基礎科、本科、研修科と名古屋校でレッスンを受けた後、アイムエンタープライズへの所属をきっかけに上京しました。研修科2年目からは池袋校に通ったんですが、池袋校では私の他にも事務所に所属している方がいましたし、地方から上京している人たちもいて、その人たちの真剣な態度を目の当たりにして「うかうかしていられない」と思いました。
事務所に合格した時のことは覚えていますか?
とても嬉しかったです。ですが、所属してすぐにお仕事をいただけたわけではありません。「上京したら生活が変わるかも」と淡い期待を抱いていたのですが、そんなことはありませんでした。その時は「私は所属したという事実だけを大事に抱えながら、仕事がないまま声優人生が終わっていくのかな?」と、かなり焦りました。
話は少し変わるのですが、その時点で、当初めざしていたイラストレーターへの思いは武田さんの中で整理できていましたか?
実は事務所の所属が決まった時、ある会社の最終面接まで進んでいたんです。この最終面接は、いわば入社の確認の場のようなものだったのですが、所属が決まった時に行くのをお断りさせていただいたんです。この時は自分なりに逃げ道を断って、「もう後には引けない」と覚悟を固めました。
武田さんにとって事務所に所属したことは、とても大きな決断だったのですね。
大きかったと思います。私はそもそも子どもの頃から声優をめざしてきたわけではないので、ダメで元々と思いながら「声優になれたらいいな」と、ガムシャラに前だけを見てきました。でも事務所に所属が決まった時、初めて「声優で頑張る!」と心の底から思ったんです。だから上京して仕事が無かった時は、余計に焦りました。
それなら尚更、初めてお仕事をいただいた時は嬉しかったでしょうね。
初めの一歩をようやく踏み出した、そんな思いでした。そして「まずはここから着実に前に進んでいこう」と、自分に言い聞かせながら気持ちを引き締めました。
デビュー作を教えてください。
TVアニメで初めてメインの役を演じさせていただいたのは『僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件』という作品で、有山雫ちゃんの役を演じさせていただいた時になると思います。
この作品でマイク前に立った時のことを教えてください。
ページをめくる手の震えが止まらず、その音がマイクに入ってしまうくらい緊張していました。
現場の雰囲気はいかがでしたか?
現場は皆さん良い方ばかりで、共演者の方やスタッフの方にとても助けていただきました。中でも、この作品の音響監督さんは「もう少し演技の幅を増やしたほうがいいね」や「尺が合わないからしっかりボールド※を見ようね」というように、毎回具体的なアドバイスをしてくださいました。私のことを、一人の役者として育てようとしてくださったのだと思うんです。
ご自身の考える声優の仕事の魅力について教えてください。
自分が演じるキャラクターに命を吹き込めることだと思います。もちろんゲームであったり、漫画であったり、そのキャラクターには基本となる設定があると思うのですが、私が声をあてることでもう一つ新しい付加価値をつけられるとするなら、それはとても素晴らしいことだと思っています。それに、どんな経験もすべて声優のお仕事の役に立つと思います。実は今、お仕事でイラストを描かせていただく機会が増えているんです。自分が一度は好きで頑張ってきたことが、こうした形で役に立つのはとても嬉しいです。
どんな声優になりたいか教えていただけますか。
私にしかできないキャラクターだと、応援してくださる方から思っていただける、そんな声優になれたら嬉しいですね。それから今は私自身に近い明るく元気なキャラクターを演じさせていただくことが多いのですが、いつか自分とはかけ離れたキャラクターに挑戦して、観てくださる方を驚かせてみたいです。
声優をめざしている方へのメッセージをお願いします。
私自身まだ試行錯誤の連続で、人に何かアドバイスできるような立場ではないのですが…、まずは一つひとつやるべきことをしっかりやっていくことだと思います。そうすればきっと目標に近づいていけると思うので、頑張ってください!
※ボールド:自分がセリフを言うタイミングになると画面上に出てくる役名が書かれたマークのこと
プロフィール
武田 羅梨沙 多胡
- 所属事務所
- アイムエンタープライズ
主な出演歴
- バミューダトライアングル ~カラフル・パストラーレ~(ソナタ)
- 僕の彼女がマジメ過ぎるしょびっちな件(有山雫)
- ガンダムビルドダイバーズ(スー)