利根 健太朗さんインタビュー
2009年12月21日アニメイトタイムズ掲載インタビュー
PROFILE
利根 健太朗 5月29日生まれ。アイムエンタープライズ所属。
「声優は一般人にはなれない」とあきらめていた
アニメは好きでよく見ていたんですか?
よく観てました。特に好きだったのは言わずもがな『カウボーイビバップ』。10回以上全話リピートして観てると思います。他には小学生時代に『ドラゴンボール』も毎週楽しみにしてました。その時は絵と別に声を出している人がいるとは考えていなかったですね。
声優という仕事を知ったり、意識したのはいつ頃ですか?
中学時代に僕が入っていた放送部でも声優ブームが起きて、友達が声優養成所の募集告知の切り抜きを持ってきて、「林原めぐみさんみたいな仕事ができるんだよ!」って。その時はじめて声優という仕事には一般の人でも就けるんだ、と知りました。スペシャルな人しかなれない特殊な職業だと思っていたので驚きました。狭き門どころか、開いてないんだろうという感じでしたね。
大学と舞台と日ナレの3足のわらじ
利根さんの中では声優はスパイになるくらい難しいと思っていたんですね(笑)。
そうです。高校時代は特に演技の勉強をしたわけでもなく、自分でナレーション原稿を書いたり、ラジオドラマをやっていたくらいで…。放送部で大会にも出ましたが、県大会の午前中で落ちました(笑)。当時は海外特派員やアナウンサーになれたらいいなと思っていましたね。大学に進学しても特に声優になりたいと思っていたわけでなく、舞台に夢中でした。そんな時に先輩から「トネケン、声がいいから声優もいいんじゃない?」と言われて、仲が良かった友達と「養成所に通おう!」と門を叩いたのが日ナレでした。それが大学2年生の頃です。
大学の授業と演劇サークルで舞台、そして日ナレのレッスンと多忙な毎日だったんじゃないですか?
それにバイトもしてました。だから授業を切り捨てました(笑)。
ちなみに大学は卒業されたんですか?
はい。一応…。7年かかりましたけど(笑)。
卒業できて良かったです(笑)。立派な大学なので、もったいないですからね。
そうなのかなあ……。たしかにサークルの先輩はJICA(国際協力機構)や新聞社、航空会社のキャビンアテンダントをやってたりする人ばかりでしたが、僕の代は、モデルや脚本家や舞台俳優になったりする人が多くて。変わってるんですよね(笑)。
自分にピッタリだった日ナレのレッスンシステム
サークルでの活動がプロにつながるのは素敵ですね。ところでなぜ日ナレを選んだんですか?
全日制とかレッスン時間が多いところは必然的に無理だったので、週1回で3時間のコースがある日ナレのレッスンスケジュールは僕にピッタリだったんです。あとは受講料が安いので、親に迷惑をかけずに自分のバイト代から捻出できるというのも大きかったです。もちろん、卒業されたたくさんの方が活躍されているという実績も素晴らしかったので決めました。
日ナレに入ったということは声優への道を一直線に……。
いえ、まだそこでも声優じゃなきゃダメだというところまで気持ちがいってませんでした。まず自分の演技力や表現力を向上したかったんです。僕以外の受講生には、患者さんとのコミュニケーションを上手になりたいという理由で受講している看護士さんとか、もっとフランクにお客様と話したいという接客業の方もいました。でもレッスンに臨む姿勢は皆さん真剣でした。日ナレで教わったことは演劇サークルの活動にもつながることがあって、レッスンで教わったことをサークルに持って帰ってフィードバッグさせていただくことも多かったです。
楽しい!毎週の30秒トーク
1年目の基礎科ではどんなレッスンを受けたんですか?
舞台や実写で活躍されている伏見哲夫講師に教わっていまして、毎週30秒トークをするレッスンが印象に残っています。みんなの前に立ってパフォーマンスをするんですが、それがいつも楽しくて。自分で脚本を書いて、「ここで爆笑するに違いない!」と想像しながらレッスン前に一人で練習して発表という流れで、僕の中では毎週舞台の本番を迎えるようないい緊張感と楽しさがありました。他の人の発表を見るのも楽しくて、すごくウケているのを見ると自分も触発され、充実してました。
本当に前向きですね。自己表現が苦手という人も多いですよね。
根に人を楽しませたい、喜んでもらいたいという気持ちがあるんです。
改めて知った演じることの楽しさ
基礎科で学んだことで今の自分に影響を与えたこと、得たものが大きかったことは?
発声の基本や腹式呼吸、ストレッチ体操、体の動かし方などベースになることは一通り教えていただき、それが今でも活きています。自分にとって一番大きかったのは、感情開放や30秒トークも大切ですが、演じることの楽しさを学んだことです。リラックスして自然体でやったほうがいいということを教わりました。
逆に辛かったことはありますか?
そうですね~……30秒トークで、僕と一、ニを争う面白い人と二人で組んで、自信満々でネタをやった時にすべったこと。あとは、クラスメイトを好きになったけど振られたことくらいです(笑)。もちろんレッスンで講師の方から怒られることもありましたが、それも産みの苦しみみたいなもので、講師の方々は僕らの良さを引き出して、伸ばしてくださる指針となる存在でしたね。
最終審査落選の悔しさが声優への想いを強くした
基礎科の時にオーディションも兼ねた進級審査があったと思いますが、その時はどんな感じでしたか?
進級審査のお題が1分間のフリー演技だったので、これまでやってきたことだからネタもたくさんあって、セレクトしているのが楽しくてワクワクしました。審査当日、事務局の方もいて、無表情を装っていらしたんですが、演技中、笑いをこらえるように顔を背ける瞬間が何度もあったので、心の中でガッツポーズしてました(笑)。その時は、今の所属事務所であるアイムエンタープライズの最終審査まで進んだんですが落選しまして。あの時は悔しかったですね。
声優になると決めずに入った日ナレですが、進路を声優に絞ったのはいつ頃ですか?
本科から研修科に上がる時に、「声優になる!」という意識が強くなったと思います。年に1度しかないチャンスで、「失敗が許されない」、そんなプレッシャーもありました。
研修科はレベルも高く刺激の連続
研修科では既にデビューされている方と一緒に学ぶわけですが、そのような環境で焦ったりすることはありませんでしたか?
活躍している方を見ると、「すごいな。いいな。うらやましいな」という感じでした(笑)。でも事務所に入るだけの実力がある方達なので、この方達を超えないと自分も事務所に入れないし、事務所に入ってもライバルになるのかな?と、事務所に受かる前から先のことばかり考えてました。クラス全体のレベルも高くて、毎週毎週、刺激を受けましたね。研修科ではマイク前でのレッスンも初めてでしたし、アニメも外画も、CDドラマも舞台もと、バラエティに富んでいたことも楽しかったです。
研修科時代に一緒に学んでいて、現在活躍中の方を教えてください。
藤田咲さん、丹沢晃之さん、成家義哉さん、中村公子さん、大西望さんです。
事務所が決まった時、最初にしたこと
実際に事務所に所属されたのはいつ頃だったんですか?
入所4年目、研修科2年目の時でした。その時の沢木郁也講師も素晴らしい方で、実践的な技術を徹底的に叩き込んでくれました。具体例もわかりやすくて。例えば同じ感情の入った芝居でも、こっちのトーンの声色を使ったほうがより相手に届くとか、目に鱗状態で、「これは現場で使える!」と。沢木講師は、ひとりひとりを大切に考えてくださる方でした。
事務所が決まった時の感想は?
すぐに事務所のホームページで所属の方を見て、「自分とキャラがかぶってる人がいない!」と思いました(笑)。男性が少なめで、自分とかぶる人がいなかったので良かったです。事務所が何を自分に求めているのかを考えましたね。
割と冷静で計算高いですね(笑)。
報告をもらった時は「やったー!」と喜びましたよ、もちろん(笑)。事務所の中でも独自の道を歩んでいる気がします。
親しみやすさがあるし、女性にもウケると思いますよ。
同期は日笠陽子さん、早見沙織さん
事務所の同期にはどなたがいらっしゃるんですか?
日笠陽子さんと早見沙織さんです。二人とも人気があってうらやましいです(笑)。
日笠さんもドジっ子系で、利根さんに負けずおもしろいですよね。
ひよっちこと日笠さんには負けると思います。彼女は天然キャラですから(笑)。同期は仲がいいですね。僕とひよっちはお互いに役者以外の部分でライバル視し合っていて。「何でこいつはこんなにおもしろいんだろう? 負けられない!」とネタのパクり合いをしてます(笑)。
みんなに喜んでもらえるエンターテイナーになりたい
今後の目標を聞かせてください。
知名度を上げて、いろいろな人に知っていただくことが目標です。何でもできて、いろいろな方に楽しんでもらえるエンターテイナーになれたらいいなと思います。まずは1本メインでしっかりしゃべる、ガッチリ固める役をやりたいです。僕が得意としているやさしいお兄さんや温かいお父さんをやりたいですね。逆に悪の大王とか強い敵とかもやってみたいです。最終的にはどんな役でもできる役者になりたいですね。
あと、年齢を問わず家族で楽しめて、感動できるような、記憶に残る作品にもっと参加できたらいいなと思います。それと、いつか『カウボーイビバップ』みたいな作品もやりたいですね。この作品は、今でも自分の演技が煮詰まると、必ず最終回の山寺さんの演技を聴くほど好きなんです。チャンスがあれば、自分もカッコイイ役ができることを証明したいです(笑)。
練習でいつも100%以上を出さないと、現場で100%は出せない
声優を目指している方へのアドバイスをお願いします。
アニメだけ見ていてもアニメの仕事はできないと思うので、いろいろなものに興味を持ってほしいですね。自分がやって実践してきて有効だなと思うのは、日々の生活はパターン化してくるので、意識的に変化をつけてみることです。歯を磨く手をいつもと逆にしてみるとか、駅までの道のりを遠回りするとか、受身にならずに自分から刺激を求めることが必要じゃないかと思います。そうすれば毎日が楽しくなるし、気が付かなくても引き出しも増えているはずです。 それと、日ナレで学んでいる時に思ったのは、本気を出し惜しみしている人が多いんじゃないかと思いました。「この前はいいお芝居していたのに、何で今日はやらなかったんだろう?」という人もいて、もったいなく感じました。レッスンで100%でやっていても、現場では緊張して100%の力を出しきれないことがあります。だから、練習から100%以上を出す気持ちでやることが大切じゃないかといつも考えています。
トネケンの名前と声を全国へ
最後に皆さんへメッセージをお願いします。
今、自分はいろいろな役をやらせていただいていて、動物から宇宙人、ゴミを擬人化したキャラとか、これはまさに、この仕事でしかできない醍醐味だと思います。いつかは主役とかメインキャストをやってみたいなという野望もあります。これからもどんな役でも100%以上でぶつかっていって、トネケンの名前と声を覚えていただけるように頑張ります。そして声優を目指す方、声優へ至る道はいくつもあります。自分に合ったやり方を見つけて頑張ってください。いつか一緒に共演しましょう! お互いにメインで(笑)。